桜が好む土壌

2月を目前に控え、桜の植え替えや植え付けの適期が迫ってきた。

これまで使用する用土は特に説明もなく、基本となる赤玉土と腐葉土の組み合わせを紹介してきたが、今回は改めて桜に適した土について解説する。

桜を植えるのに適した場所

桜は日当りのよい場所を好むが、乾燥は苦手としている。

品種にもよるが樹を大きく育てるならば、枝と根の広がるスペースを考えると周囲の建物や樹木と空間を5メートルは空けるようにしたい。

根を浅く広く張る性質があるため、地面は踏み固められていない状態が良い。

根も呼吸をしているので、固く締まった土では健康に生育できず、根を満足に張ることが出来なくなってしまう。

根を健康に育てるための土質は、通気性、水捌けがよく、肥沃で水持ちがよい土壌。

水捌けがよく水持ちのよいというのは一見矛盾している性質だが、これをかなえるのが団粒構造という土の状態である。

団粒構造とは

土の粒子が有機物などによって団子状に結び付いた状態。

団粒内の隙間に空気、水、肥料分などを保持し、余剰な水分は団粒の隙間から排出される。

団粒構造のイメージ

砂のような荒い単粒構造では透水性、通気性が良すぎてすぐに土が乾いてしまうし、肥料成分も流れ出てしまう。

荒い単粒構造のイメージ

粘土のような細かい単粒構造では水はけが悪く、新鮮な空気が通わず根が窒息状態となる。

細かい単粒構造のイメージ

用土の性質は水、栄養、土の量が限られた鉢植えにおいてはより重要となる。

鉢植えの基本用土として使われる赤玉土はこの団粒構造をしているので、有機物である腐葉土と組み合わせることで多くの植物に最適な用土となる。

土壌改良

植える場所の土質が悪い場合、理想としてはその場所の土を丸ごと入れ替えたいところだが、それは流石に難しい。

そこで他から良質の土を持ってくる客土や、土壌改良用土を加えて土質を改善する。

庭の土壌改良の場合は普通、土に腐葉土や堆肥などの有機物を加えてよく混ぜ合わせる。

これらは土中の微生物の活動を活発にし、通気性や保水性を向上させ、土を肥沃にする効果がある。

桜が育つのに適した酸度

土にも酸性やアルカリ性がある。

酸度はpHという単位で表され、pH7.0が中性。それよりも数字が小さいと酸性、大きいとアルカリ性となる。

例えばレモンはpH2.5付近、胃液はpH1.5~2.0。血液はpH7.42で海水はpH8.0~8.5。石鹸水はpH7.0~10.0でセメントはpH9.8となる。

土壌が酸性に傾きすぎるとリン酸が固定、不溶化されて吸収できなくなる。また微生物が住みにくくなり、有機物の分解が進まなくなる。

また、根が生育障害を起こしやすくなる。

アルカリ性に傾くと土中のアンモニアがガス化して窒素分が失われ、ガスが原因で生育障害を起こす可能性がある。

また、微量要素の吸収が悪くなる。

多くの植物はpH5.5~6.5くらいの土壌が生育に適している。

弱酸性の土壌では微量要素が水に溶けやすく、植物が吸収しやすくなる。

(中にはツツジやサツキ、ブルーベリーのようにpH4.0~5.0くらいの酸性を好む植物もある)

桜の生育に適した酸度はpH6.0~6.5の弱酸性。

この酸度でないと生育出来ないわけではないので、この数値はあくまで酸度を調整するときの目安となる。

土壌の酸度を測定するには酸度計や試薬を使うが、ある程度ならば生えている植物から推測できる。

白クローバー、スギナやオオバコなどの酸性に強い植物ばかり生えている場所は酸性の可能性が高く、

ホトケノザ、ハコベ、スズメノカタビラなど酸性に弱い植物が生えていれば中性に近いといった具合だ。

病害虫などの要因が見られないのに樹勢が衰えている場合、土壌が適した環境から著しく外れているという可能性もある。

酸度調整

発酵が未熟な堆肥を使用した場合などにアルカリ性に傾くことがあるが、日本の土壌は基本的に弱酸性である。

詳しい説明は省略するが、植物は養分を吸収するために根毛から水素イオンを出すため、植わっているだけで土壌は酸性に傾いてゆく。

また降雨によるアルカリ分の流出、化成肥料の使用や酸性雨の影響などもある。

ミミズなどの働きである程度は中和されるが、人工的な環境では中和よりも酸性化の働きの方が上回ることが多い。

人が作り出した環境を中和するには、同じく人の助けが必要となる。

そこで酸度の調整に用いるのが石灰などのアルカリ資材である。

石灰には酸度調整の他に、植物に必要な微量要素であるカルシウムを補給する効果がある。

園芸で使われる石灰は主に次の3種類。

消石灰

水に溶けやすく即効性があるが、効果が長続きし辛い。
またアルカリ分がとても高く、入れすぎると土壌をアルカリ化してしまう。

苦土石灰

苦土とはマグネシウムのこと。
消石灰よりも効果が緩やかで長く続き、アルカリ分がやや低いので過剰になりづらい。
マグネシウムは光合成に必要な葉緑素の主成分であり、植物の成長や降雨による流出によって消費されてゆくので、苦土石灰はマグネシウムの補給にもなる。

有機石灰

貝の化石や牡蠣殻を砕いた、動物を由来とする石灰。
水に溶けづらく、効果が遅いが長く続く。酸度調整の効果も低いが過剰使用の危険がほぼない。
微量要素を多く含み、微生物を活性化させる効果がある。

石灰には他にも窒素やリンといった肥料成分とセットになったものもあるが、酸度調整に使うのは主に上記の3種類である。

酸度調整の効果は消石灰が一番高いが、反応が強すぎるため過剰使用の危険がある。

土壌の酸度や石灰の使用量をきっちりと測れる場合や、強い酸性の土壌を中和したい時以外は避けた方が良い。

苦土石灰や有機石灰の方が過剰使用の危険が低いので使いやすく、どれを使うのか迷ったらひとまず苦土石灰を選ぶのが無難である。

使うときは1㎡あたり100gを目安に土とよく混ぜ合わせる。

石灰は肥料成分と反応してガスを発生させるため、肥料や堆肥をやる一週間前には施してあらかじめ土となじませておく。ただし有機石灰は反応が緩やかなので、同時に施しても問題はないと言われている。

これから桜を植えたいという場合。樹を長く健康に保ちたいのなら、先に植える場所の土壌改良をしておきたい。

特に植え付けてから移動させたり土を入れ替えるのは難しいので、事前にしっかりと土づくりを行うことをお勧めする。