桜を接ぎ木で増やす 切り接ぎの方法
接ぎ木と桜について
接ぎ木とは増やしたい品種(親木)の一部を別の植物(台木)に接いで増やす、無性繁殖(栄養生殖)の方法の一つである。
市販されている桜の苗のほとんどがこの方法により、クローンとして作られている。
桜には『自家不和合性』と言って、同じ型の遺伝子を持つ者同士では子孫が残せない性質があり、種から生まれた子供は親とは異なる遺伝子になるためである。
自生している『ヤマザクラ』や『エドヒガン』などの野生種は一本一本個性がある。
例えるなら『佐藤』や『鈴木』といった一族を指す苗字で、佐藤さんと別の佐藤さんが子供を作っても佐藤さんが生まれるが、
園芸品種の『染井吉野』や『河津桜』などは、例えるなら『太郎』や『花子』といった特定の個体を指す名前に当たり、子供が生まれたらそれは太郎さんではなくその子供となる。
そういうわけで野生種は種で増えるが、特定の園芸品種を増やしたい場合はクローンを作る必要があるわけだ。
今回挑戦したのは切り接ぎ法と呼ばれる方法で、接ぎ木の中では最も一般的な方法である。
接ぎ木は家庭で行うにはハードルが高く、ただ桜を増やしたいだけなら挿し木の方がずっと簡単かつ大量に増やすことが出来る。
しかし接ぎ木で作られた苗は挿し木苗よりも丈夫で花付きが良くなるという利点があり、挿し木の成功率が低い品種でも増やせる可能性がある。
接ぎ木の時期
以前紹介した『芽接ぎ法』は8月から9月上旬に行うが、切り接ぎ法の適期は3月中旬~下旬。中でも「(旧暦の)2月の社日が接ぎ木の真旬」という諺があり、3月の春分に近い戊(つちのえ)の日が接ぎ木の最適期と言われる。
なぜこの頃が最適かというと、増やしたい品種を接ぐ台木が活動を始める時期だからである。
その逆に増やしたい親木は休眠中の枝を使用すると水分の蒸散を抑えられるため、活動が始まる前に採取しておく。
保存期間が長くなっても成功率が下がるので、挿し木の春挿しと同じく1カ月ほど前の2月上旬ごろに採取し、ビニールにパックして冷蔵庫で保管する。
切り接ぎ(枝接ぎ)の方法
用意するもの
台木
接ぎ木が家庭で行うにはハードルが高いとされる理由の大半は、あらかじめ枝を接ぐ根元となる苗木、台木の用意が必要なことである。
台木はどんな木でも良いわけではなく、増やしたい品種と近しい種類でなくてはならない。
先述した例え話に合わせて言うと、増やしたい品種の親戚で、同じ苗字を持つ品種となる。
ちなみに染井吉野に代表される園芸品種の多くは大島桜をもとに作られたものが多く、その大島桜は『ヤマザクラ群』に属する桜である。
大島桜などの野生種は大きく成長しすぎたり、観賞価値が園芸品種に劣るなどの理由で市場にはあまり出回らない。
台木を新たに用意する場合には、自分で苗を育てる必要が出てくる。
方法としては、手近に台木に向いた品種があれば春挿し、緑枝挿しなどの挿し木で苗を作る方法。
無ければ増やしたい品種から種を採取し、それを育てて台木とする方法などがある。
時間はかかるが種から育てた方が丈夫な苗になることと、増やしたい品種から採取した種ならば確実に遺伝子的に近い苗が入手できる。
太さが1~1.5㎝くらいまで育てば台木に最適なサイズとなる。
育てるのは庭植えでも鉢植えでも良いが、後の作業のしやすさを考えると鉢植えの方がやりやすい。
接ぎ穂
増やしたい品種(親木)の枝。
2月上旬ごろに休眠中の枝を採取し、ビニール袋に密封して冷蔵庫で保管しておく。
前年に長く伸びた枝の真ん中あたりで、芽と芽の間が等間隔に伸びている場所が良い。
ナイフ
切れ味がよい清潔な刃物。切り口が滑らかでないと失敗しやすいので、切れ味が良いことが重要。
接ぎ木テープ
伸縮性のある結束用のテープ。台木と接ぎ穂を固定するのに使う。通常は接着剤などが付いていないので結んで固定するが、中には結ばず固定できたり自然分解されるものなどもある。
剪定バサミ
枝を採取する時や接ぎ穂・台木の調整に使う。
作業の流れ
穂木が乾いてしまわないよう素早く行う必要があるため、事前に流れを頭に入れておく。
接ぎ穂の調整
用意した親木の芽の間が適度に詰まった個所を2~3芽が残るように切り取る。
根元の片側を刃物で木質部(固まっている芯の部分)にわずかにかかる深さで削ぎ落す。
反対側を切り戻し、根元を楔形にする。
台木の調整
台木の根元近くを剪定バサミなどで水平に切り、切り口を刃物で滑らかに整える。
切り口の側面を斜めに切り上げる。
切り上げた面の少し下に切り込みを入れる。
切り上げた面から切り込みまで垂直に切り下げる。
この時の切り込みの深さは、接ぎ穂の削いだ面の長さより少し短くする。
接ぎ穂の固定
接ぎ穂の長く削いだ面を台木の内側に向け、切り込みにしっかりと差し込む。
この時、台木と接ぎ穂の縁を合わせ、形成層がしっかりと合わさるようにする。幅が合わない場合は端に寄せ、片側だけでも合わせるようにする。
形成層とは植物の新しい細胞を作り出している部分で、木質部の外側に当たる。ここを合わせないと活着しない。
台木と接ぎ穂が密着するように、接ぎ木テープを巻いてゆく。ずれないように注意しながら下から巻き上げ、切り口の上面まで包んだら折り返し、今度は巻き下げてゆく。
テープを結んで固定し、作業終了。巻き方が歪なのは所詮は素人ということで勘弁していただきたい。
その後の管理
庭植の場合は接ぎ木部が隠れる程度に土を被せておく。
今回は鉢植えなので乾燥と雨水の侵入を防ぐためにビニールを被せておいた。
方法としては以上となるが、自分の拙い技術では成功するかどうか未知数である。
数カ月後に結果が出たらまたご報告させていただく。
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