桜の剪定の法則

桜の剪定について

「桜切る馬鹿 梅切らぬ馬鹿」という言葉がある。
桜は剪定をしない方が良く、梅は剪定をした方が良いという意味の諺だ。
梅についてはカテゴリー外となるので割愛するが、桜は切り口が塞がりにくく腐りやすい性質があるので枝や幹を切るのは避けた方が良いという理由である。
しかし庭植えにしろ鉢植えにしろ、樹木の健康を保ち花を長く楽しむためには剪定は欠かせない。
多くの植物がそうであるように、桜にとっても剪定は重要である。
太い枝を切るのは素人には難しいが、こまめに剪定をして樹をコンパクトに保つことで、大枝を切るのを避けることが出来る。
適切な剪定を習得するのは一朝一夕には無理な話だが、あくまで家庭で行う範囲の作業で、桜の剪定時における注意点を理由を踏まえて紹介する。

桜の剪定の時期

落葉樹の多くは葉を落とした冬の間が剪定の適期である。(逆に常緑樹の多くは春が剪定の適期)
花木や果樹は花芽の形成や結実の関係で前後する場合もあるが、桜については冬が望ましい。落葉から半月ほどたった頃から芽吹く1カ月前ほど、月で言うと12月下旬から2月の間に行う。
生育のサイクルに逆らって剪定をすると樹に重大なダメージを与える危険があり、いくつかの理由から桜は落葉期に行うのが一番適している。

活動
落葉中の休眠期に剪定をすることで樹液の流出が抑えられるので、樹への負担が少ない。

枝ぶり
葉が落ちているので枝ぶりや芽の付き方が見やすく、作業もしやすい。

花芽分化
桜の花芽は初夏のころに作られる。もしもこの頃に剪定をすると、花芽となるべき芽が葉や枝となってしまう。
冬には花芽と葉芽がはっきり分かれているので、開花を見越した剪定が出来る。

枝を切る際の注意点

枝をおろす時は付け根や分かれ目で綺麗に切り落とすか、芽のある位置で切る。
萌芽力の強い樹なら芽のない位置で切ることも出来るが、桜は決まった位置以外に出来る不定芽が発生し辛いので、切口から新しい枝が伸びづらい。
芽より先には樹液が届かないので、芽のない位置で切ると芽より先は枯れ込んでしまう。
枯れてしまうと当然ながら切口は塞がらないので、そこから腐朽菌やシロアリなどが侵入する原因となる。
なので残した枝や芽が成長して切口を綺麗に塞いでくれるように、余分な切り残しを残さないようにする。

枝を切り詰めるときは芽の先端のラインで直角に切るか、芽の方向に沿って斜めに切る

芽に近すぎると乾燥して芽が枯れてしまうが、切り残しが長すぎても枯れ込む。

乾燥しないように長めに切り残した挿し木 芽のラインで変色している(枯れ込んでいる)のがわかる

心配な場合は少し長めに切っておくか、切り口に保護剤(トップジンMペースト)を塗る。

枝を根元から切る場合は付け根の上下のふくらんだ部分を残す(赤線の部分) この部分に傷口を塞ぐ作用があるので、切り取ったり傷つけないよう注意する。
正しいラインで切ると、全周からカルス(癒合組織)が発生して傷を覆ってゆく 

切るべき枝

桜の剪定は大枝を落とすことは極力避け、込み合った枝を間引いたり、伸びすぎた枝を切り戻すことが基本となる。
かと言ってせっかく伸びた枝をいきなり切るのは抵抗があるので、少しずつ段階を踏んで剪定に慣れてゆくのが良い。

まず確実に不要となる枯れた枝を落とす

枯れ枝は生きた枝と比べてハリやツヤが無く、変色しているのを目安に探す。
枝先が枯れている場合は生きた部分まで切り戻し、全体が枯れている場合は生きた部分との分岐点で切り取る。

右が枯れた枝 左が生きている枝

忌み枝を適宜抜いてゆく

採光や通風を妨げる枝を取り除くことで病気や害虫の発生が抑えられ、樹の健康を保つことが出来る。
基本的に不要となる枝のことを「忌み枝」と言って、剪定時はこれを目安に全体のバランスを見ながら枝を落としてゆく

忌み枝の例

交差枝・絡み枝
他の枝と交差したり、絡み合っている枝。
放置すると風で枝同士が擦れて樹皮が傷つくので、枝の流れが悪い方を根元から切り取るか、ぶつからない位置まで切り戻す。

ひこばえ・シュート
切り株や根元から伸びる勢いのある若芽をひこばえやシュートと呼ぶ。
成長力が旺盛で放置すると主幹の栄養分を奪ってしまうので、早いうちに切り取る。

幹吹き・胴吹き
主幹から伸びる枝。
樹冠内の風通しや日当りを悪くし、主幹の成長を阻害する。

ふところ枝
樹冠内に発生する勢いの弱い枝。これも風通しや日当りを悪くする要因となる。

徒長枝
強い勢いで伸びた長く太い枝。剪定した跡から発生することが多い。
枝葉の成長が盛んで長期間成長を続ける。養分を成長に消費するため花芽を付けない上に、他の枝の養分も奪ってしまう。勢いが強すぎて樹形を乱すことから、切り戻すか切り取るのが普通。

立ち枝・下がり枝
真上や真下に伸びる枝。
ただし枝が上に伸びる種類や枝垂れ性の品種もあるので、枝ぶりを見て流れが悪く樹形のバランスを乱す枝を下ろす。

平行枝・重なり枝
同じ方向に複数伸びた枝。
下の枝の日当りが悪くなるので、バランスを見て片方または一部を間引く。

車枝
一か所から複数の枝が車輪のように放射状に伸びた状態のこと。
見た目が悪く枝同士が競合するので本数を減らす。

切口の保護

枝を切る道具は主にハサミとノコギリの2種類がある。
指くらいの太さまでなら剪定鋏で切れるが、太い枝を無理にハサミで切ろうとすると割れてしまうことがあるので、太めの枝はノコギリで切った方が安全である。
ノコギリで切った後は切り口をナイフかノミで滑らかに削り、保護の為に殺菌癒合材(トップジンMペースト)を塗っておく。雨水を介して菌が侵入するのを防ぐためで、太い切り口には重ねて2~3回くらい塗っておくと良い。
細い枝の切り口には塗らなくてもほぼ心配ないが、塗っておくのがベストではある。
保護剤は木工用ボンドで代用できるが、強度に劣ることや殺菌作用がないので、桜を剪定するなら殺菌癒合材を用意したい。

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病害虫

落葉期で枝ぶりがよく分かるうちに行うと良い病害虫対策がある。
剪定に関連した病害虫対策を少し紹介する。

膏薬病

枝にフェルト状のカビが生える病気。
見つけたら被害個所を削ぎ落し、傷口には上記の殺菌癒合材を塗っておく。
発生の原因はカイガラムシの分泌物なので、カイガラムシを駆除することが防除の方法となる。
カイガラムシの駆除にはマシン油乳剤を散布する。ひどく発生している場合はブラシなどでこすり落とす。
カイガラムシの発生を抑制するには日頃から風通しと日当りの良い環境作りを心掛けることである。

膏薬病に罹患した桜
膏薬病に罹患した桜

てんぐ巣病

染井吉野に多い(他の桜にはあまり見られない)枝が箒のように異常に生えてくる病気。
感染した枝は切り離すしかないので、深めに切り戻し、切り口には殺菌癒合材を塗っておく。

 

以上が基本的な剪定の法則になる。
ただし上記の例に倣わなければならないわけではない。
剪定すべき枝は樹木それぞれの環境によって変化するため、絶対的な正解例はない。
例えば基本的に忌み枝とされている枝も、古枝を若い枝に更新する時や、樹形を仕立て直したい時には残して生かすこともある。
重要なのは今後の枝葉の伸び方を予測し、全体のバランスを整えることである。
しかしそういった判断は日頃の観察や経験を積まなければ難しい。
弱っている樹など、剪定をすることで枯れに繋がる場合もあるので、無理をせずプロに任せることも時には必要である。