桜を接ぎ木する 呼び接ぎの方法

接ぎ木とは

『連理の枝』という言葉を聞いたことがあるだろうか。

理は木目のことで、枝同士が触れ合っているうちに双方が連なり、一つになってしまった状態。転じて男女の仲の良いことを指す言葉である。

植物には傷口を塞ごうとする性質があり、枝同士が擦れて傷ついた部分を塞ぐうちにお互いの組織が癒着し、やがて水分や養分のやり取りもするようになる。

そうして枝同士が繋がることは自然界では比較的よくあることで、これを人工的に行い、二つの植物をくっつけるのが接ぎ木である。

増やしたい品種の一部を別の苗に接ぐことで、その品種の苗を新たに作るのである。

種子から育てる有性生殖だと両親の遺伝子が混ざってしまうため、桜などの園芸品種は一般的に接ぎ木による無性生殖で増やされている。

接ぎ木には一般的に3月ごろに行う『切り接ぎ』と8月ごろ行う『芽接ぎ』があるが、今回はあまり行われない呼び接ぎを紹介する。

 →切り接ぎの方法の紹介へ

 →削ぎ芽接ぎの方法の紹介へ

 →盾芽接ぎの方法の紹介へ

呼び接ぎとは

接ぎ木では普通、増やしたい品種(親木)から切り離した枝や芽を、あらかじめ育てておいた苗木(台木)に接ぐが、呼び接ぎは根から切り離さずに活着させる。

切り離すまでは根から水分と養分が供給されるので、失敗しても親木、台木を枯らす恐れがほとんどなく初心者にも行いやすい。

しかし『芽接ぎ』『切り接ぎ』に比べて多く行えないという欠点がある。

呼び接ぎの方法

時期

最適なのは3~4月の桜が活動期に入る頃。

落葉中の休眠期を除けばいつでも行えるが、活着までに時間がかかるので、活発な活動の始まる前の春に行う方が良い。

用意するもの

親木

増やしたい種類の木。

切り離しても良い若い枝がある物。

その枝の近くに台木を固定できることが条件。

台木

親木を接ぐ苗。

親木と近縁種でないと活着しない。

染井吉野や河津桜など園芸品種の桜の多くは、ヤマザクラ群に属する大島桜を交配させて出来たものが多いので、大島桜を台木にすることが多い。

または増やしたい品種から種を採取し、あらかじめ育てておいて台木にする。

 →桜の種の育て方の記事へ

ナイフ

切れ味が良く清潔な刃物。

接ぎ木テープ

伸縮性のある結束用のテープ。

作業の手順

台木と親木を近くに置く

今回は両方が鉢植えなので並べておくだけだが、台風などの時に動かしやすいように籠に入れておいた。

地植えの場合は後で掘り出せるように近くに仮植えする。

呼び接ぎの準備

親木の接ぎたい枝(穂木)を削る

なるべく根元に近い位置で、穂木となる枝を1~3センチくらいの幅で、浅く中心の木質部にかかる深さに削る。

今回の親木は2017年の6月に緑枝挿しした河津桜。

呼び接ぎ 親木の準備

台木を削る

同じく根元に近い位置で同じように削る。

今回の台木は2018年の5月に芽を出した大島桜の実生苗。

呼び接ぎ 台木の準備

両方の切り口を合わせて結束する

お互いの形成層が合わさるように切り口をくっつけ、ズレないようにしっかりと接ぎ木用テープで固定する。

形成層とは樹皮の内側に見える薄い緑色の部分で(厳密にはその外側)、植物が新たな細胞を作っている部分のこと。

接ぎ木の際にはここを合わせないと活着しない。

呼び接ぎ 切り口を合わせる

作業完了

活着するまでは親木、台木ともに枯らさないよう注意して育てる。

活着したら接いだ部分の下で穂木を切り離し、台木の上部を切り落とす。

桜の呼び接ぎ

終わりに

接ぎ木の方法の一つとして今回、呼び接ぎを紹介したわけだが、実のところあまり実用的ではない。

桜は接ぎ木の難易度が比較的低いので、数を増やすのが目的なら他の方法の方が効率が良いからである。

それでも呼び接ぎを行う利点としては、失敗しても台木と親木を枯らす恐れが少ないということが挙げられる。

また成功率の低い種類でも活着する確率が高いので、貴重な種類を増やしたい場合には有効な方法となる。


→呼び接ぎの切り離しの記事へ