桜を取り木で増やす 高取り法
植物には生存確率が上がるように遺伝子に多様性を持たせるため、同じ遺伝子間で子孫を作ることが出来ない『自家不和合性』という性質を持つものがある。
日本の代表的な花木である桜もその一つで、同じ種類であっても個体差がある野生種と違い、観賞用に交配されてできた園芸品種は種から同じ品種を増やすことが出来ない。
それならばどうやって増やしているのかというと、同じ遺伝子をそのまま増やす、クローン増殖で増やしている。
日本の桜の8割を占める染井吉野もそのすべてがクローンで、九州のものも北海道のものもすべてが同じ遺伝子を持つ。
クローン増殖というと難しそうに聞こえるが、要するに増やしたい木の一部を切り離し育てることで、同じ遺伝子を持つ苗を得るのである。
方法としては挿し木、接ぎ木、取り木などがあるが、共通するのは苗として育てるためには切り離す枝や芽に新たな根が必要になることだ。
今回紹介するのは枝を切り離す前に根を出させる取り木という方法。その中でも落葉高木で行うのに向いている高取り法を紹介する。
取り木とは
取り木とは増やしたい木の一部に傷などをつけ、そこから根を生やし、切り離すことで新たな苗を得る方法である。
根が出たことを確認してから切り離すので失敗が少なく、成木の形の良い枝を選んで行えば、初めから大きくて形の良い苗を得ることが出来る。
挿し木や接ぎ木と比べて数を多く増やせないという欠点はあるが、挿し木で発根し辛い植物でも増やせる可能性が高く、接ぎ木より丈夫な苗を作れるという利点がある。
ただし切り離せるまで発根させるには時間がかかる。数も限られるので挿し木で簡単に発根する種類では行う意味があまりない方法である。
向いているのは挿し木で発根し辛く、挿し穂を得ることが難しい貴重な植物などを増やす場合などだ。
高取り法とは
取り木にはいくつか種類がある
株本の枝に土を盛り、発根させる盛り土法。
根元の枝を曲げて地面に伏せ、埋めて発根させる圧条法(枝伏せ法)。
そして高い位置の枝に傷を付け、そこに水苔や土を付着させ発根させるのが高取り法である。
傷をつける方法もいくつかあり、針金をきつく巻きつけたり、切り込みを入れる方法などがある。今回は樹の周囲の皮をはぎ取る環状剥皮法を行った。
取り木の時期
高取り法が可能な時期は基本的に対象の植物の生育期前半。4~7月ごろ。適期は常緑樹は4~5月ごろ、落葉樹では6月ごろになる。
取り木の方法(高取り法の環状剥皮法)
用意するもの
水苔(小粒の赤玉土)
十分に水を吸わせてほぐしておく。赤玉土などでもよいが、枝に固定する際には手間がかかる。
ナイフ
切り出しナイフやカッターナイフなど、切れ味の良い刃物。
ビニール
透明でなくても構わない。光を通さないものの方が発根しやすいとの噂もある。
破れる可能性もあるので厚手のものが良い。ラップで代用することも出来る。
ひも
今回使ったのは麻ひも。ビニールを縛ることが出来れば何でもよい。
取り木の手順
取り木をする場所を選ぶ
発生後2~4年以内の1~2センチくらいの若い枝が成功率が高い。
成功したら切り離すことになるし、失敗して枯らす可能性もあるので、将来的に不要になる枝や切り取っても問題のない枝で行うこと。
邪魔な小枝は切り取るが、芽の周囲は細胞の活動が活発なので、切ったらその場所で行うと良い。
(ちなみに写真の枝は発根しやすくなるように事前に針金を巻きつけておいたのだが、今回は何もしなかった枝の方が良く根が出たので、あまり意味はなかったかもしれない)
枝の上下に切り込みを入れる
堅い木質部に当たるまで刃を入れ、ぐるりと一周する。
切り込みの幅は幹の直径の2~3倍ほど。ただし太い枝の場合は3~4センチくらいの幅にする。
細すぎると傷口が塞がってしまう可能性が、広すぎると枝が枯れる可能性がある。
上下の切れ込みを繋ぐように縦に切れ目を入れる。
皮を剥ぎ取る
表皮と形成層を綺麗に剥ぎ取り、木質部を完全に露出させる。
形成層とは木の成長のもとになる細胞を作り出す場所で、樹皮の内側にある緑色でぬめりのある部分。木質部は成長が止まった芯に当たる堅い部分。
湿らせた水苔を巻きつける
皮を剥いだ所に一握りほどの水苔を巻きつける。
水が溜まると発根し辛くなるので、水苔は軽く絞って水気をきる。
土を使う場合は先にビニールを巻いておくと入れやすいだろう。
ビニールで包む
水苔にビニールを巻きつけて、上下をひもで縛る。
下側は水分が抜けないようにややきつめに、上側は水分を補給するためにやや緩めにしておく。
早いもので1カ月弱で発根が確認できた。(下の写真の赤丸内)
今回は染井吉野で二か所、大島桜で二か所の四カ所で試し、1カ月ほど過ぎた時点で染井吉野の二か所と大島の一か所で発根を確認した。
残る一か所だが8月の台風の後、急に枯れてしまった。
ビニールを外すとカルスは出来ていたが根の気配はなかった。
その後の管理
水苔が乾いてきたら湿らせてやり、決して乾燥させないように注意する。
1~2本発根したくらいでは切り離さず、十分に根が張るのを待つ。
切り離しの適期は落葉樹では落葉後、常緑樹では翌年の芽吹き前となる。
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